先月の新刊「史録 スターリングラード」を購入。税込8250円とあってちょっと躊躇していたが、やはりこれは手元に持っておこうということで入手した。
サブタイトルに「歴史家が聞き取ったソ連将兵の証言」とあるように、本書は、モスクワ大学教授だったイサーク・ミンツ等の、ソ連・大祖国戦争史委員会のメンバーが、スターリングラード戦が終わる前後から市内に入り、ソ連軍の司令官、指揮官、兵士、政治委員、女性衛生兵、市民などから集めた証言記録である。そのインタビュー記録は膨大な量だったが、刊行・公開される前に検閲機関グラヴリトから差し止めを食らい、これまでほんの一部しか公開されなかった……というもの。当然、当時のソ連や共産党にとって都合の悪い証言もあったわけで、それに反する生々しいソ連軍将兵の肉声が知れるという意味でも貴重だなと。
また本書は、欧米の歴史家やジャーナリストによるソ連兵の描き方についても批判的で、「スターリングラード運命の攻囲戦 1942-1943」を著したアントニー・ビーヴァーについては、軍や共産党による残酷さを強調し過ぎていて、ソ連兵を「強制的に戦わされた人々」として描写していると。
一方「イワンの戦争」のキャサリン・メリデールも、ソ連兵を「軍や共産党に騙された可哀想な人々」として描く傾向があり、それに反するインタビュー記録は意図的に排除されているとしている。
本書では、そういった欧米側にとって都合のいいソ連兵観から離れて『なぜソ連兵はスターリングラードであそこまで戦えたのか?』を探求している。結局、そこにはソ連共産党の価値観を兵士たちに教え込み、それを戦闘の動機(モチベーション)として根付かせたのではないかという結論に至るわけで、それが良いことなのか悪いことだったのか、そういった善悪判断はともかく、それがスターリングラード戦でのソ連軍将兵の士気につながったという話になる。
まあ、そういった話は脇に置いても、ウォーゲーマー的には、第62軍司令官チュイコフ、第308狙撃兵師団、第13親衛狙撃兵師団、第35親衛狙撃兵師団第101親衛連隊、高名な狙撃兵ヴァシリー・ザイツェフに関する多くのインタビューが載っているのは、ありがたい。本書で取り上げられているのは、ある意味「オマハ海岸のアメリカ第1歩兵師団」「バルジ戦のドイツSS第1装甲師団」のように、スターリングラード戦を代表するソ連軍部隊だと思うので、スターリングラードの市街戦ゲームをプレイする際には、よりイメージ豊かに触れられるかと思う。
とは言え、今現在、手元にはスターリングラード市街戦のゲームは無い。以前は、アバロンヒル「Turningpoint:Stalingrad」や、Six Angles版SPI「Battle for Stalingrad」等を所有していたが、どれも手放してしまったし、あると言えばASL(Advanced Squad Leader)のヒストリカル・モジュール「Valor of the Guards」「Red Factories」か。第308狙撃兵師団か、第13、第35親衛狙撃兵師団が出てくるシナリオでもプレイしてみようか。