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【参考文献】「零戦と一式戦・隼 完全ガイド」

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雑誌ミリタリー・クラシックスの再編集本「零戦と一式戦・隼 完全ガイド」を購入。こういったメカメカしい本は、買うとキリがないのであまり手を出さないが、たまにはね。と言うのも「TSWW:Singapore !」のインパール作戦シナリオを準備するうち、ビルマ戦線での一式戦・隼の運用に興味が沸いたので、簡単に読めるモノを求めて本書に手を出した。なので「零戦」部分には、あまり興味が無かったり……

しかし零戦にしろ一式戦にしろ『負けたけど、善戦もしました』的なポジティヴな記事には、あまり興味が無い。本書でも、一式戦がP-51と互角に戦った、1機も失わずに完勝した戦いもあった、とあるけれど、最終的には負けているワケだし、互角に戦った以上に、どこでどう負けたのか、運用面での失敗など『こういう原因で負けました』的なネガティヴな情報が読みたいのだ。もちろん、ポジティヴな記事が読みたい方もいらっしゃるだろうが、敗因を知る方が学びにもなるしね。

まあ、自分が求める情報はあまり載っていなかったので、やはり本当にビルマ戦線での一式戦隊の活動を知るなら、戦史叢書の「ビルマ・蘭印方面第三航空軍の作戦」か、梅本弘氏の「ビルマ航空戦(上下)」に手を出すしかないかも。どちらにしてもボリューミーだが、結局、簡単に読めるモノより、そういう重厚長大な史料の方が頼りになりそうだ。 

 


【Company Scale System】「The Fulda Gap : The Battle for the Center」

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プレオーダーしていたCSS(Company Scale System)第6弾「The Fulda Gap : The Battle for the Center」が到着。このCSSシリーズ、WWII太平洋戦線のサイパン島グアム島テニアン島西部戦線モンテリマール、東部戦線ノボロシースクと来て、今回は1985年想定の第三次世界大戦モノと相成った。本作は、今までのCSSと同じく、1ヘクス=500m、1ターン=2時間、1ユニット=中隊というスケールで、東西ドイツ国境の中央部に位置するフルダ峡谷に対してワルシャワ条約軍が攻め込むという、良くあるWWIII想定となっている。たしかにフルダ峡谷を舞台としたWWIII仮想戦は数あれど、このスケールでの作品は初めてのような気がする。 

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ちなみに本作は、CSSシリーズの中でも「Modern War Vol.1」と称されており、本作に続いて、南部のホフ峡谷、北ドイツ平原、東西ベルリン市街戦(これはマップ2枚)が企画されている。まあ、さすがにSPIのセントラルフロント・シリーズのように連結はできないが、別の戦場も予定されていると。そのため、本作ではすでにカウンターのミスが発覚しているが、ルールブック巻末に『訂正カウンターはベルリンに付ける』と書いてある。いや、それ出るの、いつなんだ。と言うか、早くもエラッタが多い。

http://talk.consimworld.com/WebX?233@@.1ddcadd9!enclosure=.1de1b79a 

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本作は、フルマップ4枚でフルダ峡谷周辺をカバーしている。1ヘクス=500mなので、4枚併せても、70✕52ヘクス=35km✕26kmという範囲。これ、攻め込むワルシャワ条約軍からすれば、開戦日+3日ぐらいで突破したい範囲だろうか。本作では、5本あるシナリオのうち、2本は開戦初日のみ、キャンペーンで開戦から5日間までを扱っている。さらに開戦4日目、6日目からのNATO軍の反撃シナリオもあり、両軍とも攻防が担えるシナリオが用意されている。 

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登場する部隊は、まずアメリカ軍第11機甲騎兵連隊、第3機甲師団、第8機械化歩兵師団という、WWIIIウォーゲームに触れた方ならお馴染みの面々。第3機甲師団と第8機械化師団は、いまだにM60A3戦車、M113装甲車装備だが、最前線を担う第11機甲騎兵連隊には、1985年当時の新鋭戦車M-1、M-3騎兵戦闘車(イラストは無い)が配備されている。ただそのM-1戦車も、まだ初期の105mm砲装備だったりする。しかしM-1戦車は、これも当時の最新技術である、チョバム装甲を有しているため、いったん撃破結果をくらっても、一度それを無視し、それ以降はチョバム装甲が無くなったものとして、装甲値が下がった状態となって、また撃破結果を被れば除去される仕様になっている。

また、基本的にCSSは、各旅団・連隊ごとに司令部カウンターが用意され、いったん潰走した(地図盤から取り去られた)ユニットは、その司令部の周囲に復活する形となっている。しかし第11機甲騎兵連隊だけは、連隊司令部が無く、連隊指揮官と3名の大隊指揮官カウンターが司令部として機能する。さらに第11機甲騎兵連隊は、連隊活性化チットをコスト無しでカップに投入でき、それを引いてプレイした後、もう一回、今度はコストを支払って再度カップに投入できるという、例外的な扱いになっている。まあ、そういう処理でもしなければ、ワルシャワ軍の物量に潰されてゲームとして成立しないのかも。 

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こちら、黒や灰色の強面カウンターは、西ドイツ第5装甲師団と第53郷土防衛旅団。第5装甲師団には、すでに(やはり当時新鋭の)レオパルド2戦車が配備されている。もちろん120mm砲装備なので、M-1戦車の火力7を上回る、火力8を誇っている。ちなみに本作での火力や防御修整は、今まで出版された第二次大戦モノのCSSと同格ではない。たとえば「CSS:Montelimar」では、ドイツ軍のパンター戦車を火力7と評価しているが、だからといってM-1戦車と同じ火力ということではない。あくまで10面体ダイスで判定するシステム内で、第二次大戦、第三次大戦の車輌を、別個に格付けした形になっている。これは、10面体ダイスを用いたGTS/CSSシステムの限界なので致し方なし。 

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こちらがNATO軍の航空支援カウンター。戦闘機には長距離空戦力/短距離空戦力(カウンター左上)もあるが、A10サンダーボルトの防御力(右上)の高いこと。またAH64アパッチは、まだアメリカ軍のどの師団・連隊にも配備されておらず、独立した航空支援とされている。

そのAH64アパッチは、ヘルファイヤ対戦車ミサイルを搭載しているが、各対戦車ミサイルごとに火力と射程が記されたカウンターが用意されている。アメリカ軍のTOWなら火力7、射程2~6だが、ヘルファイヤは火力8、射程2~12と長射程になっている。 

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そしてこの、お洒落な春物コートみたいな色のユニットが、ソ連第79親衛戦車師団。さすが親衛師団、最新のT-80戦車が配備されている。しかしT-80も、火力7とは言え、相対するM-1戦車は防御修整-5。単純に言えば、7-5=2、10面体ダイスを振って0~2を出せば、M-1戦車に潰走チェックをさせられるが、撃破の可能性はまったく無い。となれば、T-80中隊ユニットを3個スタックさせて、大隊として運用し、火力を7+1+1=9に上げ、集中射撃でさらに+1=10-5とすれば、10面体ダイスの目0~5の範囲で、20%で撃破、40%で潰走チェックとなる。いや待て、それは隣接ヘクスから射撃した場合の話。射距離が2ヘクス以上離れると-3修整が付くのだから、結局、撃破の目は無くなってしまう。やはりいつものGTS/CSSのように、M-1戦車に弾幕を浴びせて視界を奪い、その隙に隣接ヘクスまで突っ込んで大隊全力で集中射撃をしろということか。それでも、最初の撃破結果はチョバム装甲で無かったことにされるのか。結構厳しいな、ソ連軍戦車…… 

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こちらは、ソ連第27、第39、第57自動車化狙撃(モーター・ライフル)師団、第119独立戦車連隊。このあたりになると、T-62M戦車もちらほらと。

ちなみに両軍部隊の質で言うと、部隊練度(Troop Quality)が最も高いのは、アメリカ第11機甲騎兵連隊、西ドイツ第5装甲師団の7。ソ連軍は、各自動車化狙撃師団が練度5、第79親衛戦車師団が練度4という、親衛の名にふさわしくない有様。もちろんNATO軍の方が、指揮範囲も長く、派兵(Dispatch)値も高く、臨機応変に戦える印象。ソ連軍は、戦力がある割に、それを効率的に運用できないだろう。このあたり、当時のアメリカ軍で論じられた「OODAループ」=相手より早く決断と行動を回すことで、相手を麻痺させる=が上手く再現されるような気がする。

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こちらが、ワルシャワ軍の航空支援カウンター。

その下に見えるコミッサール(政治局員)は「CSS:The Little Land」でも登場したが、特別イベント等でワルシャワ軍の正規指揮官が除去された場合に、NATO軍プレイヤーによって!強制的に置き換えられるという、一種の嫌がらせカウンター。コミッサールは、NATO軍プレイヤーによって置かれたワルシャワ軍ユニット(スタック)の部隊練度を3下げ続けるという、厄介な輩である。 

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他にも、1980年代戦らしく、核兵器NBC防護ペナルティ、避難民などのルールもあり。 

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また航空ディスプレイ上で、AWACS優勢、航空優勢なども表現されているが、このあたりが詳しくやりたいならGMT「Red Storm」がオススメかと。自分も、10年前だったら「Red Storm」買っていただろうなあ……(遠い目)

とりあえず、基本ルールやチャートは今までのCSSと変わりないので、差分さえ読んでしまえば、すぐにプレイできそうだ。CSSでの戦車戦は、無傷か、潰走か、一発除去かという、0か100かみたいな割り切り方なので、あまり面白くなさそうだが、そのあたりも確かめたい。1ユニット中隊スケールとはいえ、ソ連軍は大隊スタックでの運用が求められるから、NATO軍との差異も分かりやすいし、戦力は多くても鈍重なワルシャワ軍と、戦力は少なくても機敏なNATO軍という、OODAループ対決として見るのも面白い。そういや、同じくOODAループを意識したWWIIIゲーム「Less Than 60 Miles」も、いずれまた挑戦してみたいタイトル…… 

【Advanced Squad Leader】「Singling Campaign」(Operations Special Issue #1)

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2008年夏に出版された「Operations Special Issue #1」を、海外オークションにて購入。今回も、お目当ては本誌ではなく、付録のASLヒストリカル・モジュール「Singling Campaign」が欲しかったので。この戦闘は、1944年12月6日(バルジの戦いが始まる10日前)、フランスのロレーヌ地方で行われた、アメリカ第3軍の攻勢の一環であり、アメリカ第4機甲師団エイブラムズ支隊(そう、あのM-1エイブラムズ戦車の元ネタの)による、Singlingという小村への攻撃を扱っている。対するドイツ軍は、第11装甲師団を投入しており、小部隊戦闘の戦例としては有名らしい。GMTの「Panzer」シリーズでも「Expansion #3 Drive to the Rhine」に、やはりこのSinglingのヒストリカル・マップが入っている。詳しい戦闘経緯は下記に。

Small Unit Actions: Singling 

ヒストリカル・モジュールと言っても、地図盤1枚のみ、専用ルールは3ページのみ、新規カウンターは無し、キャンペーンゲームの他にシナリオが2本入っているだけという、小振りなものになっている。

で、なんでまたそれを12年前に買わなかったかと言えば、当時(2008年夏)、自分の作家仕事が思わぬアクシデントで滞り、一時的にお金が入ってこない状況だったため、まあ仕方ないと思いつつスルーしたのだ。その後、海外オークションで探し求め、ようやく手頃な値段のモノを見つけたと。まったく、貧乏には困ったものだが、気長に探せばそのうち手に入るものだ。

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また、この雑誌には、スターリングラード戦を扱ったASLヒストリカル・モジュール「Valor of the Guards」の追加シナリオVotG18「In sight of the Volga」も付いているが、実はこれも欲しかったのだ。「Valor of the Guards」には、追加シナリオが10本存在するが、そのうちVotG19~VotG27までは「ASL Journal」に掲載されていたから、手元にあったものの、このVotG18だけが「Operations Special Issue #1」に入っていたため、そこだけ欠けた形に。まあ、これでようやくコンプリートと。 

ちなみにこのVotG18「In sight of the Volga」と同名のシナリオが「Beyond Valor」のシナリオ5にあるが、どちらも1942年9月14日、スターリングラードでの同じ戦闘を扱っている。シナリオ5は汎用マップを使い、VotG18は史実マップを使うという違い。

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また、本来この「Operations Special Issue #1」のメイン付録は、硫黄島での戦闘をエリアシステムで再現した「Rage Against the Marines」=ゲームジャーナル16号付録「激闘硫黄島」のMMP版である。他にも「GTS:Devil's Cauldron」「OCS:Korea」の訂正カウンターも入っており、そのあたりも持っているのに、経済的な理由で当時買えなかったことを思い出すと、なんとなーく切ない気持ちになる。あれから12年かあ……(遠い目)

【参考文献】Gerhard.L.Weinberg「A World at Arms (New Edition)」

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先日購入した、シリーズ戦争学入門「第二次世界大戦」の著者、ゲアハード・L・ワインバーグの代表作「A World at Arms」が到着。初版は1994年刊行、この新版は2005年刊行なので、近年の研究も盛り込まれているはず。全1178ページ、本文920ページ、参考文献24ページ、注釈188ページという構成になっている。しかしレンガより重たいこのボリュームよ……

この「A World at Arms」も、評価の高い第二次世界大戦通史であり、独ソ戦の著作が多いDavid Stahelも『単独のガイド書としては最良』と評している。Amazonのレビューを見ても、7割方★★★★★と、おおむね評判が良さそうだ。さすがに到着したその日に、本書の全貌が分かるはずもないが、ざっと見てみると、ウィルモットの「大いなる聖戦」同様、第二次世界大戦を戦略的に俯瞰した一冊になっているようだ。ただ「大いなる聖戦」では、軍人や将軍名を極力排して、政治指導者の決断に焦点を当てていたが、この「A World at Arms」では、それなりにマンシュタインだパットンだジューコフだという名前も出てくるので、ウォーゲーマーとしては親しみやすく感じる。またビーヴァーの「第二次世界大戦(上中下)」では、民間人など「下からの歴史」的な証言も拾っていたが、そういう部分も見られず、あくまで「上からの歴史」に徹している。民衆史にあまり興味の無い自分としては、そこも好み。

どこまで近年の研究が取り入れられているかは、まだ分からないが、とりあえずバルバロッサ作戦の章を読んでみたら『1941年9月5日、スモレンスク近郊のイエルニャで、ソ連軍は、この戦争最初の地域的な勝利を収めた』=ドイツ軍はすでにその時期から躓いていた、とあったので、そういう認識なら大丈夫かなと。ただ、Amazonのレビューで『書き方が難解』とあったが、たしかに構成は上手くないかもしれない。と言うのも、1941年のモスクワ戦の章を読んでみたら、それを完全に説明しないうちに、長々とハンガリールーマニアの遺恨の話が出てきて、おいタイフーン作戦どこいった?という気になったので。

また、やはりAnazonのレビューで『終戦後、生き延びた日本の水兵と兵士たちは帰国し、被害は受けたものの、荒廃はしていない日本の再建に取りかかった』……とあるけれど、原爆を2発も落とされて『荒廃していない』は無いだろう、というツッコミもあった。そのあたり著者が、アメリカの戦争を聖戦化しているとの指摘もあり。そういう目で、シリーズ戦争学入門「第二次世界大戦」も読んでみると、たしかにそちらも、原爆投下によって日本は降伏に傾いた、という解釈にも読める。まあ、基本的にこういった本は、ある程度のバイアスもありとして読むのが良いのかもしれない。

しかし読むとは言ってもこのボリューム、いくら「おうち時間」があっても読み切れなさそうなので、とりあえず興味のあるところから拾い読みしようかと。 

A World at Arms: A Global History of World War II

A World at Arms: A Global History of World War II

 

ちなみに今回も実体本を購入したが、やはりAmazonのレビューで『Kindle版のスキャンの出来が悪すぎる』とあったので、もしご購入を検討の方はご注意を。

アドテクノス「レッドサン・ブラッククロス」

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1985年にアドテクノスから発売された仮想戦ゲーム「レッドサン・ブラッククロス(以下RSBC)」を中古で購入した。と言うか、その続編である「リターン・トゥ・ヨーロッパ」(1986年)と、拡張キット「海上護衛戦」(1986年)と、3点まとめて買ってしまった。しかも3作とも以前持っていて、数年前の断捨離でいったん処分したのに、また買い直すという、何をしているんだお前はと自分でも思う。

いやキッカケは、先日「TSWW:Singapore !」のインパール作戦シナリオをプレイした後、補給の厳しい陸海空戦域級ゲームって面白いなあ、そういや「RSBC」もそういうゲームだったよなあ、あれって実は補給戦ゲームとして革新的な作品だったんじゃないだろうか……と思い出し、ふとネット中古を探したら、たまたま3点まとめて出品されていたので、即ぽちったと。まあ、いったん手放したモノをまた入手するのは、あまり褒められないが、そういうことも、ままあると……  

 ウォーゲーマー諸氏、また作家・佐藤大輔氏の読者ならご存じかと思うが、小説版「RSBC」と、このウォーゲーム版「RSBC」は、アメリカが参戦しなかったため、ドイツが第二次世界大戦に勝ち、日本と相対する、という前提は同じだが、戦場が異なる。小説版では、ヨーロッパを制したドイツが、亡命イギリス政府を追う形でカナダに入り、そこからアメリカ合衆国に攻め込むため、主戦場はアメリカ大陸となっている。もちろん、アメリカを支援する日本軍の戦力を吸引するため、ドイツ軍はインド洋でも作戦活動を行い、その根拠地であるソコトラ島上陸作戦が小説版のクライマックスでもあるのだが、あくまでインド洋は副戦場に過ぎない。日本軍は、次に太平洋を制するため、パナマ運河侵攻作戦を開始し……というところで、著者物故のため、小説版は永遠に中断されている。  

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その小説版が発表される以前に発売された、このウォーゲーム版では、ヨーロッパを制したドイツ軍が、1945年、イラン、カザフスタン方面から、アフガニスタンへ侵攻し、すでに旧イギリス領インドに進出していた日本軍と交戦する(西阿事変)。さらにその3年後の1948年、ドイツ軍が2個軍集団をもってインドへ侵攻、これが日独の全面戦争=第三次世界大戦となった……というのが、ウォーゲーム版「RSBC」の設定である。一応この設定では、いったんインド亜大陸の過半をドイツ軍が制したものの、オーストラリアに避難していたイギリス政府の援助もあって、日英連合軍が戦線を押し戻しつつあった1950年8月にヒトラーが死亡して、停戦が結ばれるという筋書きであった。まあ、戦場の規模はだいぶ違うが、いったん押し込まれた防御側が、戦線を押し戻したところで停戦というのは、1950年前後という時代からしても、史実の朝鮮戦争をモチーフにした展開だと思われる。 

ゲームのコンポーネントとしては、フルマップ2枚に、アフリカ東部からビルマまでが描かれ、小説版で名高いソコトラ島も入っているが、そこを奪い合うことはまず無いかと。カウンター総数も1000個以上と、ちょっとしたプチ・ビッグゲームになっている。1ヘクス=100km。1ターン=10日。外交・生産ルールは無いので、戦略級ゲームと言うほどでもなく、単なる作戦級と言うには規模がデカいので、その中間の、戦略作戦級ゲームとか、戦域級ゲームというくくりが正しいのだろう。

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1ユニットは、1個師団。単純に「戦闘力-移動力」が記されている。各師団は、表面が4ステップ状態、裏面が3ステップ状態、さらに損耗すると、マーカーを置いて2ステップ、1ステップ状態を表すという、あまり見ないスタイル。

で、最初に買った1985年当時『えっ?』と思ったのが、基本的に、移動した機械化、空挺、4ステップの非機械化ユニットは、移動しただけで1ステップ損耗するというルール。当時、高校生だった自分も『動いただけで戦力が落ちるの?』と驚いたが、軍隊とは移動しただけで損耗するものである、というデザイン・ポリシーも、本作の大きな特徴である。と言うか、本作発売から30年以上経ったが、そこまでやらせるウォーゲームというのも、あまり例を見ないと思う。

また各軍ごとに、総合補給拠点(ASH)、中継補給拠点(CSH)、前線補給拠点(FSH)というカウンターが用意され、それをつなげて、各師団を補給下に置くことが求められる。このルールも、買った当時は『めんどくせーなー』と思ったが、なかなかあの1980年代、そこまでやらせるゲームも珍しく、そこにもう一度触れたくて、買い戻したとも言える。今では、OCS(Opeartional Combat Series)や、TSWW(The Second Worls war)シリーズなど、補給面に厳しいゲームも多々あるが、ある意味、先駆的なデザイン哲学だったと思う。それが面白いとか、マトモに機能するかはまた別の話として。 

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こちらが航空ユニット。1ユニット=30機。カウンター右下が航続距離、なのは良いとして、左上から、対地攻撃力、対艦攻撃力、空戦力という並びはいかがなものか。自分の感覚だと、空戦力は上(空)に、対地攻撃力は下(地面)に、だと思うのだが、このセンスだけは、いまだに解せない。 

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艦船ユニットは、軽巡以上は1ユニット=1隻。小説版「RSBC」でも、インド洋で、ドイツの戦艦「フリードリヒ」と、日本の戦艦「尾張」「紀伊」が撃ち合うくだりがあったが、ウォーゲーム版では、さらにそれを超える「デア・フリートランデル(44cm連装砲✕4)」「播磨(56cm連装砲✕3)」も登場する。まあ、どちらも仮想史実では、第三次世界大戦には間に合わなかったのだけれど。また空母も、日本軍には「飛翔」級、ドイツ軍には「ヘルマン・ゲーリング」が登場。 

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海軍にも、海軍補給線カウンターが用意されており、簡便な形でそれが表現されているが、拡張キットの「海上護衛戦」を導入すると、わざわざ日本軍が輸送船団を編成し、それをドイツ軍のUボートが襲うという、小説版「RSBC・死戦の太平洋」的な場面が再現できるかもしれない。なにしろこちらは、2009年に初めて買った時も、まったくプレイせずに処分してしまったので、今回はいずれプレイしたい。 

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この「RSBC」のリプレイは、当時「タクテクス」誌にも掲載され、自分もそれを読んで、本作を買った覚えがある。執筆者は、もちろん佐藤大輔氏。後に、彼のウォーゲーム記事をまとめた「主砲射撃準備よし!」にも再録されているので、ご興味のある方は、中古で買ってみては……と思ったが、Amazonを見たら、今、高いのね! 申し訳ないけど、自分が持っているのは、どこかのBOOKOFFで200円で買ったモノ。いや、1990年代なんて、この手の本は、そこらの古本屋さんで手軽に買えたもので。ちなみにこの本には、同じくアドテクノスの「ニイタカヤマノボレ」「ドイツ装甲師団長」「自衛隊3部作」 シミュレイター「北海道侵攻」に関する記事も載っている。

余談ながら、佐藤大輔氏は、自分が作家仕事をしていた時期に、富士見書房の新年/忘年会で何度かお見かけしたが、一度もお声をかけることは無かった。なぜなら、こんなことを言うのもなんだが、見た目からして、心身とも不健康そうな人だと思ったから。いつも不機嫌そうで、パーティー開始の挨拶でも「出版と表現の自由」に関する檄文みたいなのを延々と読み上げ、腹を空かせた売れない作家の自分としては『早く終わらねえかなー、料理が冷めちまうなー』と感じたのを、今でも覚えている。その後、ほどなくして亡くなられたと聞いて、ああ、やっぱりあの時の不健康な印象は正しかったんだなと思い、特に驚きはしなかった。まあ、それは、目に見えない世界のお話しということで…… 

アドテクノス「リターン・トゥ・ヨーロッパ」

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仮想・第三次世界大戦ゲーム「レッドサン・ブラッククロス(以下RSBC)」に続いて発売された、仮想・第四次世界大戦ゲーム「リターン・トゥ・ヨーロッパ(以下RtE)」を中古で購入。前の日記で書いたように、ネットで3部作をまとめ買いしたが、「RSBC」はプレイした形跡があったものの、「RtE」はカウンターを切っただけの状態だった。自分も、学生時代にこの2つを所有していた際は「RtE」まで遊ばなかった気がする。 いずれにしろ、30数年ぶりの再購入ということで。

ゲームスケールは「RSBC」同様、1ヘクス=100kmなので、地図盤も連結できるが、連結ルールや連結シナリオは無い。1ターンも「RSBC」は10日だったが、「RtE」では15日に変わっている。

ルール自体、「RSBC」独特の「移動しただけでステップロス」とか「1師団=4ステップ」ルールが無くなり、3段階の補給リンクも、単純に司令部か前線補給所の補給範囲内にいるかどうかという、オーソドックスな判定に変わっている。まあ、当時の制作陣も、いろいろと反省したのだろうし、ヨーロッパ戦線なら、インド戦線より補給はゆるくても良いのかなとも思う。しかしどうせなら「RSBC」そのままのルールで続編を作って連結シナリオを入れるか、逆に「RtE」ルールを使って、簡易的に「RSBC」をプレイするルールがあっても良かったと思う。まあ、今となっては、自作すれば良いのだけれど。

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設定としては、1950年、ヒトラーの死亡により、日独の第三次世界大戦が停戦。ロンメルを大統領、シュペーアを首相とする、大ドイツ連邦が成立する。これと平行して、イギリス首相チャーチルが、中立国アメリカにヨーロッパ奪還計画を提案。さらに1952年、アメリカ大統領に当選したパットンが「ヨーロッパ十字軍」演説をぶち上げ、イランの内戦を巡って、遂に米英日vsドイツの間で第四次世界大戦が始まるというもの。米英枢軸軍(総司令官ブラッドレー)の東方軍(総司令官モントゴメリー)は、イランからカフカス山脈を越えて、旧ソ連領に侵攻。モスクワ間近まで迫るも、東方総軍(総司令官マンシュタイン)の冬季反攻をくらってハリコフで米英6個軍が包囲壊滅するという状況に。

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一方、西方でも、米英枢軸軍が1952年6月6日にグレートブリテン島に上陸し、これを奪還。続く1953年6月6日には、カレーに上陸し、その一週間後にはパリも奪還。しかし調子に乗ったモントゴメリーが、一気にオランダへ侵攻しようとして、空挺作戦を敢行するも、親衛装甲軍の反撃を受けて失敗。とは言え、ドイツは東西から攻め込まれつつあり、ロンメルが核攻撃恫喝に出ると、先んじてアメリカ空軍がベルリン核攻撃を行おうとして、ドイツ空軍の反撃を受け、代わりにケルンに核爆弾が投下された。この報復として、ドイツはロンドンを核攻撃(ブラッドレー大将が死亡。ワシントン滞在中のチャーチルは難を逃れた)。怒りに燃えたパットンは、再びベルリン核攻撃を命じるも、これも失敗。代わりにドイツが、米英枢軸軍の基地があるアイスランドレイキャビクを核攻撃。これによってアメリカ国内に反戦機運が高まり、大統領の退陣要求が行われる中、そのパットンが自動車事故で死亡。1953年4月に停戦が相成った……という、後味の悪い筋書きになっている。

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陸上ユニットは「RSBC」同様、1ユニット=1個師団。ちなみに「RtE」 初版は、米英枢軸軍のカウンターシートが裏表逆に印刷されているそうで、今回購入したのもそれ。 

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1航空ユニットは、「RSBC」の30機ではなく、20~50機という換算。しかし相変わらず、この対地能力が上で、空戦能力が下に書かれているセンスは解せぬ。 

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艦船ユニットの能力値は、並びが変わり、対空力は数値ではなくA~Eというカテゴリーに変更。アメリカ海軍には、原子力空母、原子力潜水艦も登場する。 

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まあ、当時これを買った時も、プレイ欲よりも「RSBC」のその後が知りたい欲の方が強かったと思う。だから設定を読んでしまえば、なるほどそうなったかで終わり、プレイに至らなかったような。またその仮想史実も、乱暴な核の応酬で終わるという結末だったので、あまり魅力的ではなかったし。 

ウォーゲーム的に見ると、独創的だった「RSBC」と比べると、良く言えばオーソドックスなものに収まっているし、逆に言えば当たり障りの無いルールになっている。遊びやすいと言えば遊びやすいけれど、わざわざそのシステムに触れたいかと言われると、うう~んという感じ。とは言え、せっかく30数年ぶりに入手したし、以前持っていた時もほとんど遊ばなかったので、いずれ触れてみようとは思う。

【参考文献】「地図とグラフで見る第二次世界大戦」

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新刊「地図とグラフで見る第二次世界大戦」を購入。書店さんで内容を確認してから購入し、そのまま喫茶店でお茶飲みながら眺めようかと思ったものの、予想より大きいサイズで断念……

本書は、第二次世界大戦を経済性、労働力、指揮、組織、作戦、ホロコースト、戦後処理などにわたって分析したうえで、視覚的に表現(インフォグラフィック化)したもの。単なる折れ線グラフや円グラフとも違うあたりが面白い。戦況図なども、あっさり省略してあるが、大まかな流れはつかめるし、こういったインフォグラフィック的なウォーゲームの地図盤も、もっとあっても良いのかも。

個人的に惹かれたのは、戦略爆撃によるドイツの合成燃料生産の低下、各国歩兵師団の装備比較、英米独の機甲師団の編成の推移、ソ連戦車軍の変遷、D-DAYでの第82・第101空挺師団の分散率、バルバロッサ作戦開始時からモスクワ近郊到達までのドイツ第7装甲師団の損耗度、ノルマンディ上陸以後のアメリカ軍補給網の改革、神風特攻隊の損失と戦果(艦艇1隻撃沈するのに83機喪失)等々……こういった統計や分析がお好きな方は是非是非。

【Advanced Squad Leader】「Brevity Assault」

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イタリアの新興メーカーAdvancing Fireが出版した、ASLヒストリカル・モジュール第1弾「Brevity Assault」が到着。プレオーダー価格93ユーロ(約11700円)。発売後は103ユーロ(約12980円)になっている。お題はタイトル通り、イギリス軍がリビア・エジプト国境地域で行ったブレヴィティ作戦を含む、1941年5月~6月の、ハルファヤ峠、フォート・カプッツオ周辺の戦闘を扱っている。このメーカー最初の製品(しかもイタリア製)なので、さてどんな出来かなと、お試しの意味も含めて買ってみた。 

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まず、本作で最も特徴的なのは、作戦マップ上で部隊を動かし、それによってキャンペーンゲームを進める方式を採り入れていること。作戦マップと言っても、B4弱ぐらいのサイズの地図で、ポイント・トゥ・ポイント式に、ハルファヤ峠やカプッツオが配置されている。そのポイント毎に、既存のASL地図盤の組み合わせ例が載っており、進入した方向やらなんやらで、個別に戦闘を解決していく仕組み。まあ、戦術級ゲームでは良く見るアイデアだが、意外とASLでは珍しく、しかも製品版として発売されたものも少ないのではないだろうか。 

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こちらが、作戦マップ上に配置する部隊カウンター。戦闘はあくまでASLとして解決するので、このカウンターそのものには能力値は無く、配置面と機動面があるだけ。ちなみに多少、イタリア軍やイギリス軍のASL追加カウンターも入っているが、カウンターシートの「抜き」はちょっと甘い感じ。まあ、いきなり本家MMPクオリティを求めるのも酷よね。  

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シナリオは7本、キャンペーンゲームは3本収録。本作に収録された、ハルファヤ峠とソルーム以外の戦場では、既存のASL砂漠地図盤が必要になる。もちろんカウンターとしては、ドイツ軍用に「Beyond Valor」、イギリス軍用に「West of Alamein(砂漠ルールと砂漠地図盤)」、イタリア軍用に「Hollow Legions」が必要と。 そういや、そろそろ「Hollow Legions」の新版もプレオーダーに上がるかな。

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こちらがハルファヤ峠のヒストリカル地図盤。2枚構成で、かなり細長い戦場になっていて、我が家のテーブルには乗り切らない。まあ、88mm砲とイギリス軍戦車隊の戦闘になるから、レンジは長いし、どちらか1枚しか使用しないシナリオもあるので、一応実プレイも出来るかな。しかし地図盤自体の紙質はペラペラで、耐久性は低そう。平地の色も2枚で微妙に違っているので、次作からもっと頑張ってほしい。 

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こちらはソルームの地図盤。こちらもペラい紙質だが、サイズ的には我が家のテーブルにもOK。とは言っても、やはり主戦場というか、メインディッシュはハルファヤ峠戦だよな。

まあ、あれこれ書いたけれど、作戦マップを使うという実験精神は評価したいし、北アフリカ戦のASLヒストリカル・モジュールも、正規には発売されていないので、興味深い企画だと感じている。ハルファヤ峠戦というのも、北アフリカ戦の中ではメジャーだろうし。今のところヒストリカル物は、コレクション的に集めているだけだが、いずれ「Hollow Legions」が再版されたり、砂漠用のセットが発売されたら、プレイ候補に入るかも。 

ちなみにこの「Brevity Assault」と同時発売されたのが、シチリア島でのヘルマン・ゲーリング装甲師団の戦闘を扱う「Biazza Ridge」。こちらも買うか迷ったが、今回はあくまでAdvancing Fireの味見ということでスルーした。ASL製品は(特にサード・パーティ製品は)、全部買おうとするとキリが無いので、どこかで諦めないとね。


【参考文献】ミリタリーナレッジレポーツvol.26「小隊/分隊の戦術」

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久しぶりに神保町に出て、FORGER氏とウォーゲーマーお茶会。他人とウォーゲームの話をするのも久しぶり。そしてその前に、書泉グランデの同人誌コーナーにも寄り、ミリタリーナレッジレポーツvol.26「小隊/分隊の戦術」を購入。現代の米英軍の小部隊戦術を解説した一冊で、建物の掃討(クリアリング)手順や、火力チームの連携、待ち伏せ、車輌移動、捕虜の取扱等々が記されている。

火力チーム単位で、建物を奪い合うレベルのウォーゲームと言うと、自分は触れたことがないが「Urban Operations」がかなり良さげ。なにしろフランス軍の市街戦教官が作ったというだけあって、各地でのリプレイを見る限り『本当の市街戦はこうなんだぞ』という再現度にこだわりがある模様。今現在も入手可能だし、日本語訳も付いているという意味でもオススメしやすい。

DVGの「Warfighter Modern」シリーズも、カードを多用して現代の小部隊戦を再現しているはずだが、あいにく日本語版が無いのが残念。カードはやはり、日本語訳が欲しいところ。

【参考文献】ゴードン・W・プランゲ「ミッドウェーの奇跡(上下)」

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ネット古書店から「ミッドウェーの奇跡(上下)」を購入。日本語版は1984年と古い本だが、ミッドウェー作戦史としては定評があるかなと。著者プランゲ氏は、元GHQ戦史室長であり、戦後に日本側の作戦当事者たちから直接聞き取った内容も含まれている。なぜ今これを買ったかと言えば、そろそろ「TSWW:Day of Infamy」のミッドウェー作戦シナリオに触れたいのと、先日ピーター・パーラの「無血戦争」を読み返していたら、ちょっと気になる部分があったので。

「無血戦争」では、軍用ウォーゲームや図上演習の歴史にも触れているが、その中でミッドウェー作戦前に行われた図上演習も採り上げている。ミッドウェー図演と言えば、日本軍プレイヤー兼アンパイアを務めた宇垣纏少将が、日本軍機動部隊がアメリカ軍の空襲を受けた際、命中弾を1/3に減らして、空母赤城と加賀の撃沈が無かったことにしたというエピソードが有名だが、今回そこはどうでもいい。パーラも「無血戦争」の中で、その判定を変更したからといって、そのウォーゲーミングが失敗したわけではなく、むしろそこで提示された問題を無視したことの方を重要視している。

そして「無血戦争」では、この図演にも参加していた、当時の第一航空戦隊航空参謀、源田実中佐による『アメリカ軍プレイヤーを務めた松田千秋大佐(戦艦日向艦長)がアメリカ人らしくプレイしなかったため、アメリカ軍に対する誤った印象を与えた』という言葉を紹介している。

アメリカ軍プレイヤーがアメリカ軍らしくプレイしなかった……ウォーゲームやTRPGでは、よく聞く話だが、この元ネタが載っているのが「ミッドウェーの奇跡」だったので、早速取り寄せて確認してみた。なるほど確かに本書には『松田大佐は、その可能性があったにも関わらず、ハワイから出撃してこなかった』とある。ミッドウェー図演は、まずミッドウェーを日本側が奇襲し、その後、機動部隊はフィジーサモアへ転戦し、さらにハワイを攻めるという段取りになっており、アメリカ軍空母部隊が出撃するのは、ミッドウェーが奇襲された後という想定だったようだ。そのため松田大佐も、空母部隊は出さず、ミッドウェーの陸上機(B17等)のみを使って日本軍機動部隊を空襲したところ、これが赤城と加賀を撃沈してしまい、判定がやり直されたと。

しかし、ややこしいのは、この時の松田大佐の陸上機空襲が、アメリカ軍の空母艦載機による攻撃だと誤解されているところか。日本の公刊戦史とも言える、戦史叢書80巻「大本営海軍部・聯合艦隊2」を見ても、以下のようにある。

この図演でミッドウェー攻略の最中に、米空母部隊が出現し、わが空母に大被害があり、攻略作戦続行が難しい状況となった。そのため統監部は、審判をやり直し、わが空母の損害を減らして演習を続行したが、攻略が遅れたため艦艇燃料が不足し、惨憺たる状況を呈した。聯合艦隊参謀長(宇垣少将)は、このようにならないように作戦を指導すると述べた。しかし参会者のほとんど全部が、米艦隊の出現はミッドウェー攻略後と判断していたので、たいした問題にはならなかった。(p419-p420)

この「米空母部隊が」という記述を、そのまま引用している書籍や記事もあるようだが、恐らくこれは戦史叢書が間違っていると思われる。実際には、陸上機による攻撃であり、松田大佐は、戦後のインタビュー(歴史と人物1981年9/10 123号)でも『足の長い飛行機で索敵する』ことを主軸にアメリカ軍プレイヤーとして指揮したとある。その結果、例の判定やり直しとなるワケだが、「無血戦争」では、実際、史実でも陸上機は攻撃したものの、有効な命中弾を与えられなかったのだから、宇垣判定の方が事実に適しているんだよ、とも言っている。このあたり、歴史ファンとしても、ウォーゲーマーとしても面白い。

まあ、そんな雰囲気作りも進めつつ、いずれ「TSWW:Day of Infamy」ミッドウェー作戦シナリオに触れてみようと思う。

【Advanced Squad Leader】「A Bridge Too Far」

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1999年にMMPから発売されたASL(Advanced Squad Leader)のヒストリカル・モジュール「A Bridge Too Far」(絶版)をネットオークションにて購入。2年前から、ちまちまとヒストリカル物を買い集めてきたが、恐らくこれが値上がり度でいうと最難関。今までも出品があるたびに入札はしたものの、腰が引けて撤退してきたし、今回も3万円台で買えればなあと思いつつ、やはりそんな甘い値段にはならず、結局4万円台後半で落札した。それでも、海外オークションだと送料込み7~8万円は普通にするので、まだ安く買えた方。だったら当時、定価で買っておけよとも思うが、買い逃したモノに限って値上がりするのが世の常である。なぜそんなに高額になっているかは、これからご紹介。 

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本作のお題は「遠すぎた橋」という映画そのまんまのタイトルを見ても分かるように、1944年9月、マーケットガーデン作戦の最終目的地としてアルンヘム市を占拠したイギリス第1空挺師団フロスト大隊と、それを奪回せんとするドイツ軍SS部隊との市街戦である。マップは1枚。写真右下の見切れている部分がアルンヘム道路橋。シナリオは9本、キャンペーンゲームは3本という構成である。

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カウンターは、1/2サイズが1040個(シート4枚)、5/8サイズが528個(シート3.5枚)。イギリス軍は、6-4-8空挺分隊などが追加され、フロスト中佐(10-2)、マケイ大尉(10-2)等、実在の指揮官カウンターも入っている。対するドイツ軍も、6-5-8SS(武装親衛隊)分隊等が追加されている。まあ、そこまではいい。 

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問題はこれ。本作が中古市場で高騰している原因。黒地に白抜きのSS(武装親衛隊)カウンター。これが1/2カウンターシート2枚、5/8カウンターシートほぼ3枚分入っている。ぶっちゃけ、この「A Bridge Too Far」は、その実、黒いSSカウンターセットでもあるのだ。

そもそも元をたどれば「Squad Leader」の続編「Cross of Iron」でSS部隊カウンターが登場した時も、このような黒地に白ユニットだった。しかし同じくアバロンヒルのカードゲーム「Up Front」のボックスに、デカデカとSS兵の顔が描かれた際、『SSをカッコ良く描くのはケシカらん』という声があったらしく、ASLに移行した時、SSも国防軍と同様に、水色のカウンターに変更されてしまった。まあ、政治的正しさ(ポリティカル・コレクトネス)から言えばそれが正しい措置なのだろうし、今でも、あえてSS部隊を黒くしていないウォーゲームは多々ある。

ところが1999年、この「A Bridge Too Far」が発売される前に、サード・パーティのHeat of Battleが『やっぱりSSは黒じゃないと雰囲気でねーよな』とばかりに、自前で黒いSSカウンターセットを発売。自分も当時これを買ったが、たしかにカウンターの出来も良かったし、今でもこの黒SSカウンターを使っている。しかし商売的にも社会正義的にもアウトだったため、今ではカウンター無しで、シナリオカードだけとして販売されている。

そして本家MMPも怒ったのか『だったら、うちからも黒いSSカウンター出してやるよ』とばかりに、なぜかこの「A Bridge Too Far」に黒いSSカウンターを満載して発売したという流れ。この時期は、Critical HitもいったんASLから撤退して「Advanced Tobruk」に乗り替えるなど、MMPとサード・パーティがバチバチに火花を散らしていた時期であり、その最大の副産物が「A Bridge Too Far」とも言える。そして黒いSSカウンターが入っているからなのか、本家MMPでも発売後20年経っても再版はされていないし、再版されるとしても、また黒いSSカウンターが再録されるとは限らない。もちろん独立したSSセットの企画も無い。そういったさまざまな意味で、値上がりしているのが本作なのだ。

まあ、自分の場合、先にHeat of Battleのカウンターを入手・使用しているので、わざわざ本作のカウンターは切り離さないと思う。ある意味もったいないし、いつかこの状態のまま、誰かに譲るのだろう。またHoB版の指揮官カウンターには名前が入っているが、 本作のSS指揮官には名前が入っていないという淋しさもある。

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ちなみにこの1999年には、Critical Hitからもアルンヘム戦を扱った「Arnhem:The Third Bridge」が発売されている。そう、当時、Heat of BattleからSS黒カウンターセットを買い、Critical Hitのアルンヘムを買ったので、本家「A Bridge Too Far」は買わなくていいやという判断をしたのだが、今から思うと、いやそこは本家なんだから買っておけよと。実はこの「Arnhem:The Third Bridge」も、本来は1990年代半ばにアバロンヒルに持ち込まれたものの、当時アバロンヒルの経営が傾いていたので、発売のOKが出なかったという曰く付きの企画なのだ。

そしてこの「Arnhem:The Third Bridge」の地図盤を見ると、「A Bridge Too Far」よりも道路橋とライン河が大きく描かれており、通りにも名前が記され、ビスケット工場やら税務署やらの建物名まで書き込んであるので「A Bridge Too Far」の(通り名も建物名も書いていない)地図盤より、眺めて楽しいのは事実。ただ、海外ASLサイトの評を見ると、建物の描き方が甘く、LOS判定がしにくいんだとか。また現在Critical Hitから、改訂第6版まで出ているそうで、恐らくこれから先も再版が続くのだろうが、それを追いかける気力は無い…… 

とにかくこの「A Bridge Too Far」は、ASLというウォーゲームの、政治的な呪いと、ビジネス的な呪いが魔合体して生まれたような作品でもあり、今後はこのような作品が出ないことを祈るのみ。とりあえず自分としても、アルンヘム戦のヒストリカル・シナリオさえ遊べればそれでOKと。

【Grand Operational Simulation Series】「Lucky Forward」

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プレオーダーしていたDecision Gamesの新作にして、WWII精密作戦級シリーズGOSS(Grand Operational Simulation Series)第4弾「Lucky Forward」が到着。2014年に発売されたシリーズ前作「Atlantic Wall」から実に6年ぶりの新作である。ちなみに送料込み230ドル(約25000円)。

本作のお題はサブタイトルにもあるように、1944年9月5日~12月15日における、パットン中将率いるアメリカ第3軍のロレーヌ地方侵攻作戦である。タイトルは「幸運な前進」だが、これはもう皮肉でしかなく、パットン第3軍は、連合軍の補給事情により、いったん進撃を停止され、その間に守るドイツ軍は戦力を増強して果敢に反撃を行い、また10月の長雨と洪水によって作戦自体にも遅れが生じたという、全然Luckyな前進ではなかったようだ。

ゲームスケールは、今までのGOSS同様、1ヘクス=1マイル(1.6km)、1ターン=8時間(午前・午後・夜間)、1ターン=大隊が基本(中隊に分割可能)という、戦術級寄りの作戦級。 

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マップは、大4枚+追加小2枚。北はルクセンブルグから、メッツ、ナンシーへと南下し、東はストラスブール手前の、サヴルヌ峡谷までを含んでいる。 

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2012年発売の「Hurtgen:Hell's Forest(HHF)」と「Wacht am Rhein(WaR)」と連結するとこんな感じ。というか、我が家の狭い六畳間でギリギリ入る感じ。これで北はアーヘン、ヒュルトゲン戦線から、アルデンヌ戦線、そしてロレーヌ戦線へとつながるワケだ。ちなみにDecision Gamesではすでに、このさらに北に連結する「GOSS:Market Garden」も企画されているが、果たして出るのだろうか。まあ、5年後に会えれば上等だろうし、もし発売されても、もう我が家では全作連結できないだろう…… 

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シナリオは、基本的に5本……出た出た「Hurtgen:Hell's Forest」と同じパターン。地図盤全域を使った、1944年9月、10月、11月、12月シナリオと、仮想「もしパットン第3軍の前進を助けるため、アメリカ第82・第101空挺師団の降下作戦が許可されていたら」シナリオ。「Hurtgen」同様、これは実プレイの敷居が高い。そのうちVASSALモジュールも出ると思うが、それでも結構大変だと思う。

イメージとしては、9月シナリオはナンシー戦、アラクールの戦車戦、10月がメッツ包囲戦と長雨、11月シナリオでザール川への橋頭堡確保を目指すという感じか。このあたり、日本語で詳しく読める書籍があまり無いかもしれないが、自分の手元にあるものだと、フォン・メレンティンの「ドイツ戦車軍団」の第20~第21章、「ラスト・オブ・カンプフグルッペV」の「ロレーヌは戦車旅団の墓標」あたり。 

ラスト・オブ・カンプフグルッペV

ラスト・オブ・カンプフグルッペV

 

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一応、システム修得用としてミニシナリオ「Battle of Gremercy Forest」が、拡大マップと共に1枚のシートに収められている。「Hurtgen」の時もそうだったが、こういうミニミニシナリオと、超巨大シナリオの間を埋める、中間シナリオが無いのが残念。「Wacht am Rhein」と「Atlantic Wall」は、多少そういったシナリオもあったし、OCSのように、遊びやすい規模のシナリオを複数取り揃えてくれると、このシリーズももう少しとっつきやすくなるのだけれど。 

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カウンターシートは全12枚、カウンター総数3360個。そのうち、カウンターシート5枚がマーカー類、3枚が連合軍ユニットになっている。ノルマンディ上陸から3ヶ月経ったせいか、各アメリカ軍師団の練度も高めに安定し、砲兵・工兵の支援部隊も充実。戦場の地形的にも、開けた箇所が多いので、複合兵科能力バリバリの機甲師団戦闘団(コンバットコマンド)が活躍できそうにも思う。そう、補給さえあれば、そして天候さえ良ければ、ドイツ軍なんぞひとひねりよ、と思ってもおかしくない陣容。そして仮想シナリオで使用する、第82、第101空挺師団も入っているが、もしその2個師団を使っていたら、バルジ戦はどう推移したのだろうか。 

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対するドイツ軍は、カウンターシート4枚分。こちらの練度は、総じてアメリカ軍より低いものの、まだまだ頼もしい部隊も散見される。またロレーヌ戦には、装甲旅団という新編成部隊が投入されたのが良く知られているが、たしかにユニット構成を見てみると、砲兵がまったく無いのが辛い。まあ、GOSSは軍団単位の管理もテーマなので、軍団直轄砲兵で助けてやればいいじゃないのとも思うが、それだけの弾薬があるかどうかも問題。そういやメッツ戦では、列車砲部隊も参加したはずだけど、どれだろう(ユニットが多すぎてまだ確認しきれていない)。また、アメリカ軍を苦しめた、メッツ近郊のドリアン砦などの城塞群もそれぞれカウンター化されている。 

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そして、むしろ「Lucky Forweard」本体よりもGOSSユーザーが待望していた、新しいGOSS基本ルールも搭載。3段組み80ページ……いや、いざとなったら訳すし、この新しい基本ルールを使って「Atlantic Wall」にも再挑戦したいと思っている。また、添付のヒストリカルノートは、カラー図版も多く、この戦役をざっと眺めるには便利。 

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こちらは戦闘結果表。ひとつの戦闘に、無数の修整をちまちまと積み重ねて計算し、攻撃側も防御側もお互いd100を振るという、他のウォーゲームだったら絶対やらないことをあえてやる。それがGOSS。 

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まあ、自分としても「Lucky Forweard」が出たことより、GOSS基本ルールが整理された形で出たことの方が、ずっと嬉しい。ConsimのGOSS板を見ていても、常にルールの疑問点が飛び交っており、ここ数年分のあれやこれやが整理されただけでも万々歳だ。まあ、それを翻訳するのは難儀だが、このGOSS2020ルールで、以前のシリーズ作にも再挑戦したいとは思う。しかしGOSSのプレイは滅茶苦茶重たいし、他に優先して訳したいタイトルもあるので、しばらくは塩漬けかな。

ちなみにDecision GamesのWWII専門ゲーム雑誌「World at War」80号付録は、このGOSSのシンプル版ルールを用いた「Hannut : France 1940」だそうだ。だったら、もうそのシンプル版ルールでいいんじゃないかという気もするし、いやでも3段組80ページのルールをどこまで単純化するのよ、という疑問もある。結局、自分も面倒だと言いつつ、ちまちました計算やプレイがしたいし、あんまり削られても興ざめするしなあ……などと思いつつ、いろいろ期待している。

【参考文献】Osprey Campaign Series「Lorraine 1944」「Metz 1944」

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Lorraine 1944: Patton versus Manteuffel (Campaign Book 75) (English Edition)

Lorraine 1944: Patton versus Manteuffel (Campaign Book 75) (English Edition)

 
Metz 1944: Patton’s fortified nemesis (Campaign Book 242) (English Edition)

Metz 1944: Patton’s fortified nemesis (Campaign Book 242) (English Edition)

 

「GOSS:Lucky Forward」の資料用にと、すでにオスプレイ・キャンペーン・シリーズの「Lorraine 1944」と「Metz 1944」を購入済み。

「Lorraine 1944」は、ナンシーを包囲するための、パットン第3軍のモーゼル渡河から始まり、これに対してドイツ第106装甲旅団が反撃するもあえなく壊滅。続くドンペールの戦闘で第112装甲旅団、さらにアラクールの戦闘で第111、第113装甲旅団も壊滅するという一連の流れを「ラスト・オブ・カンプフグルッペV」の「ロレーヌは戦車旅団の墓標」よりもっと詳細かつ広範に解説している。

「Metz 1944」は、「GOSS:Lucky Forward」でもカウンター化されていたドリアン砦の攻略戦から、メッツ包囲戦全般を解説。まあ、作戦全体の動きとしては、メッツ戦の方が地味だし、もし「GOSS:Lucky Forward」をプレイするなら、装甲旅団がバタバタと薙ぎ倒されるナンシー戦を試してみたい。

【The Second World War】TSWW1.6 日本語ルール無料公開

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21世紀版エウロパ・シリーズこと、WWII戦役級シリーズTSWW(The Second World War)の公式フォーラムにて、TSWW1.6の日本語ルールが公開されました。以前の「TSWW:Day of Infamy」日本語ルールは、Yahoo !のTSWWグループで公開しましたが、そちらが閉鎖されたため、新たに訳したものを、公式フォーラムに上げ直した形です。ダウンロードするには無料アカウント登録が必要ですが、他にも様々なTSWW情報が公開されていますし、ルールの質問等にも答えてくれるので、TSWWユーザーの方は、ご登録しておいた方が良いかと思います。

今回、翻訳したTSWW1.6は、シリーズ最新作「Barbarossa」添付のルールです。TSWWのルールは、元祖エウロパ・シリーズ同様、シリーズルールと個別ルールが統合されていますが、今回はシリーズルールを「TSWW Grobal Rules v1.6」とし、個別ルール(17.C National Regulations)を切り離した格好です。また、最新ルールと組み合わせるために、今まで自分が購入した旧作の17.C部分も翻訳しました。今回、公開したのは、以下のファイルです。

 ・TSWW Grobal Rules v1.6 (最新Barbarossaルール)

 ・TSWW Barbarossa 17.C

 ・TSWW Balkan Fury 17.C

 ・TSWW Hakkaa Paalle 17.C

 ・TSWW Singapore ! 17.C

 ・TSWW Day of Infamy 17.C

   ・TSWW FAQ + Barbarossa errata July 2020

これで一応、シリーズ5作が最新版ルールで遊べるはず。もちろん、シナリオ(At the Starts)と戦闘序列(OOB)とチャート類も日本語訳があれば良いのでしょうが、とりあえず今回は基礎固めということで。シナリオもいくつか訳してはあるので、そのうちまた追加公開するかもしれません。

また、昨年公開した「Day of Infamy」の翻訳ルールから、訳語をいくつか変更しています。訳語については、昨年購入した「新訂・最新軍事用語集」も活用しましたが、このあたりは自分個人の趣味も入っていますので、あしからず。なにしろ、次作「TSWW:Operation Watchtower」(南太平洋編)が出れば、当然基本ルールもTSWW1.7に変わるし、引き続き手を入れていく予定です。

で、そのTSWWシリーズ最新作「Barbarossa」はどうしたかと言えば、これがまあ、いろいろありましたが、ようやく落ち着いてレビューを書ける状態となりました。そう、届いてはいたんですがね。それについては、近日中に詳しくご紹介します。

【Operation Combat Series】「Hungarian Rhapsody」

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プレオーダーしていたOCS(Operational Combat Series)第18弾にして、2年ぶりの新作「Hungarian Rhapsody」が到着。本作のお題は、1944年10月から1945年2月までのハンガリー戦である。史実としては、ブダペスト陥落で終わる時期のため、1945年3月から開始されたドイツ軍の「春の目覚め」作戦、それと平行するソ連軍の「ウィーン」攻勢の時期は含まれていない。恐らく「春の目覚め」だけなら、今回の地図盤範囲でも収まるだろうが、ソ連軍の「ウィーン」攻勢まで含めようとすると無理なのだろう。

ちなみにシナリオは、グランドキャンペーン(43ターン)含めて18本。地図盤1枚シナリオが5本、10ターン以下のシナリオも7本と、取っつきやすい構成にはなっている。 

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地図盤は、フルサイズ2枚とブダペスト周辺の拡大地図が1枚。範囲としては、東にルーマニア領、南はユーゴスラビア領、北はドイツとスロバキア領に囲まれた、ハンガリー領土の大半が収められている。中央のハンガリー平野は、機動戦向きに見えて、各所に点在する湿地が邪魔なような気も。 

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ブダペストの市街戦に焦点を当てた作戦級ゲーム「Hungarian Nightmare」は、あいにく手放してしまったが、「ASL:Festung Budapest」は手元にあるので、スケールを変えてプレイできそうだ。

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カウンターシートは全6枚、カウンター総数1680個(うち1/3は、マーカー類)。

こちらはドイツ軍ユニット。中隊ユニットとして分割された第501SS、第503、第509重戦車大隊や、スロヴァキア蜂起に対して臨時編成されたタトラ装甲野戦訓練師団(AR3というドイツ装甲師団とも思えない低練度)、ブダペスト市街戦で全滅したフェルトヘルンハレ(将軍廟)装甲擲弾兵師団など、末期戦らしいユニットであふれている。 

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また、やはりブダペスト市街戦に投入された第8SS騎兵師団フロリアン・ガイアー、第22SS義勇騎兵師団マリア・テレジアも登場。このあたり「カンプフ・オブ・ヴァッフェン」第1巻で読んだ連中である。しかし第3SS装甲師団トーテンコップフ、第5SS装甲師団ヴィーキングの各大隊・連隊ユニットを見ると、一度除去されたら二度と戻ってこれない再建不可マークが付いているので、もう継戦能力がガタ落ちしているのが良く分かる。ちなみに青灰色のハンガリー軍ユニット等もご同様で、いったん崩れたら取り返しがつかないのだろう……

唯一、気を吐いているのがドイツ空軍ユニットで、撃墜王エーリヒ・ハルトマン(空戦力6!)、戦車狩りのハンス・ウルリッヒ・ルーデル(敵の戦闘機が来たら自動的に逃げられるし、敵の対空砲に撃たれても撃墜はされない)が登場。 

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対するソ連軍は、「OCS:Baltic Gap」同様、機甲、対戦車、砲兵ユニットをふんだんに備えたゴージャスな陣容。そもそも補給表を見ても、1944年10月は平均13SP(補給ポイント)が届き、11月は平均13SP(最大19SP)、12月は平均29SP(最大36SP)と、かなり潤沢に戦えそうに見える。しかしソ連軍のルーマニアハンガリーへの進撃は速すぎて、鉄道のゲージ変換作業が追いつかず、ドニエストル河からは、トラックと馬車を使うしかなかったため、その兵站上の制約を表した特別ルールも入っている。

ちなみに枢軸軍の補給量は、10月が平均7SP(最大12SP)、11月~12月が平均8SP(最大13SP)。つまり補給量だけで見ても、ソ連軍は2倍から3倍となっている。 

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しかしNKVDだ、突撃工兵だは良いとして、ソ連軍歩兵師団の練度(アクションレーティング)は総じて低く、頼りになる奴と、頼りにならない奴の高低差が激しすぎる。 

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「Hungarian Rhapsody」自体の特別ルールとしては、ソ連軍の補給制約の他にも、ブダペスト包囲戦を生き抜くための「グヤーシュ(ハンガリー料理)」や、タンクバスター機、スロヴァキアやチェコパルチザン部隊等、小ネタも満載。 

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地形チャートや管理ディスプレイも、今までのOCSに無かった、カラフルで見栄えのするものになっている。本作は、ハンガリー在住のStephane Acquaviva氏の作だが、これが氏の最初のデザイン作品であり、最初のOCS作品でもある。恐らくOCS界隈にも新たな人材が入りつつあり、そういった人たちが、古参者が気にしなかった部分を見直したり、ルールに手を入れたりしているのだろう。ネット上でも、自分でOCS作品をデザインしている人たちが見られるし、また新たなOCS作品が登場するかもしれない。

自分がOCSに触れた20年前は、まだこのシリーズもその真価を正しく評価されておらず、ある意味、不憫なシリーズだった。しかしこの20年、コンスタントにシリーズを継続し、ルールも整備され、真っ当な評価もされ、国内ユーザーも増えてきたようで、良かった良かったと。むしろ自分としては、新たな不憫なシリーズ(TSWWやBCS)に力を入れたいので、OCSも後回しでいいかなと。というわけで、本作に触れるのも先延ばしになるかと思うが、そうこうしているうちに、シリーズの次作「Third Winter」が出てしまいそうなのだが……


【参考文献】「Days of Battle : Armored Operations North of the River Danube, Hungary 1944-45」

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「OCS:Hungarian Rhapsody」の参考にと思い、ハンガリー軍事史家、Norbert Sza'mve'ber氏(名前が読めん)の著作「Days of Battle : Armored Operations North of the River Danube, Hungary 1944-45(ダニューブ河北部での機甲作戦)」を購入。ハンガリー戦に関する氏の著作は「OCS:HR」の参考文献にも挙げられていたが、まずは一番手頃な値段のモノから取り寄せてみた。

本書で扱う戦闘地域は「OCS:HR」で言うと、地図盤A(西)の北側、ブダペストの北西地域である。本書には、カラーの戦況図も載っているが、詳しすぎて、むしろ「OCS:HR」には載っていない地名ばかり。 地図盤で言うなら、Esztergom(ヘクスA2915)、Komaron(A3009)、Ersekujvar(A2608)あたりで、1944年12月~1945年1月にかけて行われたソ連軍の攻撃と、ドイツ軍の反撃を扱っている。

OCSのスケールで言うと、かなり狭い範囲の戦闘を扱い、両軍の戦闘経緯も、大隊・中隊レベルまで言及されているので、むしろハンガリー戦を扱ったBCS(Battalion Combat Series)の次作「Panzer's Last Stand」の参考になりそうだ。とりあえず、BCSの新作が出るまで寝かせておくか……ちなみに氏の著作は以下に(未発売もあり)。 

Last Panzer Battles in Hungary: Spring 1945

Last Panzer Battles in Hungary: Spring 1945

 

 

【Advanced Squad Leader】「ASL Starter kit Expansion Pack #2」

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クロノノーツゲームさんから、ASL スターターキットシリーズの新・追加キット「Expansion Pack #2」を購入。ちなみに数年前に発売された「Expansion Pack #1」は、買い忘れていて手元に無い。多分、持っているつもりだったんだろうなあ。あと個人的に、本家ASL製品より、スターター製品の方が、所有するモチベーションがちと低い。なので今回も、わざわざプレオーダーはしなかった。まあ、いずれ「#1」も再版するというアナウンスがあったので、その時は買っておくつもり。

ASLスターターシリーズも、昨年発売された「Starter Kit #4」で太平洋戦線に踏み出し、日本軍ユニットが導入されたが、それに続く形の「Expansion #2」では、中国軍やオランダ軍(連合軍中小国)ユニットを導入し、太平洋戦線をより拡充するためのキットとなっている。 

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地図盤は、市街地を描いたKと、平野部を描いたlの2枚。さらに飛行場のオーバーレイ付き。 

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カウンターシートの大半は、中国軍ユニット。本家ASLでは、国民党軍(国府軍)と共産党軍(中共軍)のカウンターが別になっているが、この「#2」に含まれているのは、前者の方。と言ってもルール上、その両者が「中国軍」という呼称でひとくくりにされる場合もある。本家ASL同様、決死隊(Dare Death Squad)なる、自発的に狂暴化できるルールもあり。 

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シナリオは8本。1937年の上海、1941年のフィリピン、1942年のジャワ、ビルマニューギニア、1944年のビルマ等。まあ、ASLもいろいろ買っている割にコレクター化しているし、がっつり本家ルールでヒストリカル戦をやってみたいという夢はあるものの、結局、現実的には軽くスターターシナリオを遊んで満足……というパターンになってしまっている。たしかに、こういった軽めシナリオが沢山あると、とりあえずASLをプレイしたい時には便利なのだが、ついつい、そこで止まってしまうのも考えもの。スターターはスターターとして確保しておきつつ、またそのうち、本家ルールを復習しておかないと……

【参考文献】Nicholas Palmer「The Best of Board Wargaming」

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ピーター・P・パーラによるウォーゲーム評論書「無血戦争」の中で「ボード・ウォーゲーミング包括ガイド(Comprehensive Guide to Board War Gaming)」なる本が紹介されていたので、Amazonで検索したところ、同著者の「The Best of Board Wargaming」という書籍の方が面白そうだったので、イギリスの古書店から購入してみた。約3500円。 

Comprehensive Guide to Board War Gaming

Comprehensive Guide to Board War Gaming

 
Best of Board War Gaming

Best of Board War Gaming

 

本書の発行は1980年。当時発売されていたウォーゲーム約100タイトルについて、興奮度、ルールの明確さ、複雑度、現実性、ソロプレイに適しているかについて、さまざまなウォーゲーム識者が100点満点で採点し、短いレビューを添えて、紹介している。当然、採り上げられているのは古いゲームタイトルばかりだが、それはそれで、オールドスクール・ウォーゲーマーは楽しめるかもしれない。こういった評価は、映画評論やレコード評論と一緒で、客観的なものより、主観的な評価が面白いと思う。そんな本書の評価をいくつか見てみると……

「SPI Air War」興奮度40、明確さ75、複雑度100、現実性90、ソロ85。

「SPI Campaign for North Africa」興奮度15(ゲーム展開が遅すぎる)、明確さ90、複雑度100、現実性100(であって欲しい)、ソロ10(可能だけれど、現実的には無理)。

「AH Diplomacy」興奮度90、明確さ90、複雑度20、現実性0、ソロ0。

「GDW Drang Nach Osten」興奮度80、明確さ20、複雑度85、現実性75、ソロ90。

Flat Top」(この当時はAvaronhillではなくBattleline製品) 興奮度75、明確さ75、複雑度80、現実性90、ソロ20。ちなみにレビューを書いているのは「Iron Bottom Sounds」でもお馴染みのJack Greene氏。『十分にプレイテストはされているが、問題は、ルールが細かいことと、時間を食うこと』。

「GDW Imperium」興奮度40、明確さ100、複雑度35、現実性75、ソロ90。えっ「Imperium」興奮しない? SFゲームなのに現実性が高いという評価も良く分からない。でも評者の『深刻なウォーゲームをしたくないプレイヤーにとっては良い選択』ってのは分かる。

「SPI Invasion America」興奮度35、明確さ85、複雑度30、現実性5、ソロ90。

「SPI Next War」興奮度85、明確さ70、複雑度50~100(シナリオによる)、現実性85、ソロ40。

「AH Panzer Blitz」興奮度90、明確さ70、複雑度50、現実性35、ソロ90。

「AH Panzer Leader」興奮度80、明確さ75、複雑度60、現実性50、ソロ85。

「AH Arab-Isareli Wars」興奮度65、明確さ75、複雑度75、現実性70、ソロ80。

「PB」は、東部戦線を忠実にシミュレーションしたものではなく、戦車指揮官の夢を再現したゲームという意味で現実性が低いと。しかし「AIW」では、さまざまなルールを付け足して現実性は高まったものの、プレイそのものの興奮度は低くなるという……

「SPI Panzer Gruppe Guderian」興奮度80、明確さ100、複雑度30、現実性60、ソロ100……いや待て、なぜ未確認ユニットを使うPGGがソロ度100(最適)なんだ?と思ったけど、ドイツ軍プレイヤーとして、ソ連軍ユニットの内容は見ずに裏向きに配置すれば、たしかにソロプレイ向きと言えるのか。評者も、むしろソ連軍プレイヤーが意図的に強力なスタックと、脆弱なスタックを作れる方が問題としている。

「AH Squad Leader」興奮度100、明確さ99、複雑度80、現実性75、ソロ90。

「AH + Cross of Iron」興奮度95、明確さ99、複雑度90、現実性80、ソロ80。

「AH + Crescendo of Doom興奮度90、明確さ99、複雑度95、現実性85、ソロ80。 

ちなみに本書では、わざわざ一章を設けて「Squad Leader」シリーズをお題に、ウォーゲームの現実性について論じている。要するに『ルールを細かくしたからといって、現実性が高まるのか?』『正確さと現実性は同じなのか?』という問題。「Squad Leader」は、そのあたりの抽象化が上手く、第二次大戦の歩兵戦闘のシミュレーションを目指さず、デザイナーであるJohn Hillが解釈した第二次大戦の歩兵戦闘のシミュレーションになっていると。しかしイギリス人である筆者にとって、アメリカ人のJohn Hillが描いた「Squad Leader」の市街地図はヨーロッパらしくない(実際のヨーロッパ市街はもっと狭い)という意見も述べられていて、そういった英米(欧米)の違いも面白い。

「SPI Terrible Swift Sword」興奮度65、明確さ90、複雑度75、現実性75、ソロ80。 

「AH Third Reich」興奮度90、明確さ10、複雑度90、現実性50、ソロ75。

「AH War at Sea」興奮度70、明確さ95、複雑度10、現実性5、ソロ85。

「AH Victory in the Pacific」興奮度80、明確さ95、複雑度20、現実性20、ソロ85。

「SPI War in Europe」興奮度65、明確さ50、複雑度80、現実性60、ソロ60。

「SPI War in the East」興奮度55、明確さ65、複雑度65、現実性70、ソロ60。

「SPI War in the West」興奮度70、明確さ40、複雑度90、現実性50、ソロ60。

「SPI War in the Pacific」興奮度75、明確さ90、複雑度100、現実性70、ソロ0。

「GDW White Death」興奮度75、明確さ85、複雑度65、現実性75、ソロ90。

「AH Wooden Ships and Iron men」興奮度60、明確さ95、複雑度30、現実性50、ソロ5。

「SPI World War I」興奮度65、明確さ70、複雑度25、現実性40、ソロ95。

……という感じ。中には、自分が触れていないゲームも多々あるが、こういったゲーム評論を読むのは大好物。今現在、Board Game Geekでも、10点満点でゲーム評価ができるが、あれは評価軸が単一の総合評価であり、本来はこういった複数評価軸で論じた方が、そのゲームの内容がよく分かるかと思う。もちろん興奮度なんて、個人の意見以外のなにものでも無いけどさ。

また本書では他にも、作戦級ゲーム、SFゲーム、大型のモンスターゲーム、手軽に遊べる(ビア&プレッツェル)ゲームについての記事もあり。評価自体は古いものだけれど、ウォーゲーム・レビュアーとしての姿勢は、目を通しておきたい内容になっている。 

【参考文献】アンガス・コンスタム「北岬沖海戦 一九四三・戦艦シャルンホルスト 最期の出撃」

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北岬沖海戦 (一九四三・戦艦シャルンホルスト最期の出撃)

北岬沖海戦 (一九四三・戦艦シャルンホルスト最期の出撃)

 

新刊「北岬沖海戦 一九四三・戦艦シャルンホルスト最期の出撃」 を購入。著者は、オスプレイの各種シリーズでの著作も多いアンガス・コンスタム。お題は、1943年12月に行われた、欧州戦線最後の戦艦同士の戦いでもある、北岬沖海戦。訳者あとがきにもあったが、たしかにひと昔前(いやふた昔、さん昔、よん昔前か)なら、ハヤカワのノンフィクション文庫から出ていてもおかしくないテーマだなと。

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我が家にあるウォーゲームでは「TSWW : Hakkaa Päälle」に、この北岬沖海戦シナリオが入っている。あくまで海戦に慣れるための練習シナリオなのだが、本書も読んだことだし、ちょっと動かしてみたい気もしている。ちなみに本書の主人公艦であるシャルンホルスト(TSWWでは巡洋戦艦BC扱い)は、イギリス側の戦艦デューク・オブ・ヨークより防御力(カウンター右上の数値)は高くなっており、速度(カウンター右下の数値)も、イギリス軍の軽巡洋艦並になっている。もちろん砲撃力(カウンター左上の数値)は、デューク・オブ・ヨークの方が優っており、実際ゲーム上で会敵したら、シャルンホルストとしては、1ラウンド戦って逃げる感じだろうか。まあ、巡洋戦艦ってそういう立ち位置か。 

【The Second World War】「TSWW:Barbarossa」Part.1

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21世紀のエウロパ・シリーズこと、TSWW(The Second World War)の新作「Barbarossa」が今年4月に到着。お題はもちろん1941年6月の、枢軸軍によるソ連侵攻・バルバロッサ作戦を含む、東部戦線の諸戦役を1943年6月まで(つまりクルスク戦の手前まで)包括している。言うなれば、TSWW前期東部戦線セットであり、21世紀版「Drang Nach Osten」「Fire in the East」という感じか。

ちなみにボックスアートは、ドイツ軍バージョンとソ連軍バージョンがあり、自分はソ連版を選んだ。ドイツ版は、箱にデカデカと鍵十字が描かれているが、それが気に食わなかったわけではなく、単純にデザインとしてこちらが好みだっただけ。

その紹介がなぜ4ヶ月も遅れたかと言えば、到着した際、カウンターシートが1枚欠品していたのだ。実はこのゲーム、カウンターシートが28枚!も入っており、欠品に気づいた時は『まあ、多いから1枚ぐらい間違えるよな』とノンキに構え、メーカー側に連絡を入れたものの、その直後、イギリスが新型コロナウイルスの影響でロックダウンに。本作を販売しているTKC Gamesは個人事業なので、ディレクターからも『うちの年老いた母親に感染させてはいけないから、郵便局に行くのも控えている』と言われては『お、おおぅ、お大事にな』と言うしかなく、その後も、ディレクター本人が熱で寝込んだり(コロナではなかった)して、ようやく7月中旬に欠品シートが到着。しかし他の新作もどっと到着していたので、それをひととおり紹介し終わったところで、ようやくこの超大作について語れることに。いや、長かったね。

今回も、自分が購入したのはLieutenant版……地図盤とカウンターだけが印刷され、ルールブックやチャートはDVD-ROM化されたバージョン。そのおかげでだいぶ安くなったが、すべてを印刷したColonel版だと435ポンド(約6万円)となる。価格的にも、超大作である。 

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では、恐らくウォーゲーム史上最大の独ソ戦ゲームである本作の戦場から。地図盤は、全部で20枚。うち2枚は、海上移動用の戦略地図盤。残る18枚を連結して、西はワルシャワブダペスト、東はウラル山脈、北はバレンツ海、南はイランのテヘランまでと、大半の東部線戦ゲームなら省略するような範囲まで含まれている。果たしてそんなところまで入れる必要があるのかと思うが、一応、工場の疎開ルールもあるので、たとえ戦場にならなくても、後方地域として入れる必要があるのだろう。もちろん、我が家の六畳間で収まるはずもなく、現実的に言えば、地図盤2~4枚のシナリオしか置けないだろう。しかしもっと問題なのは、配置するユニット量である。 

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すでにVASSALの、バルバロッサ作戦シナリオの配置データも受け取っているので、画像として切り出してみよう。まずこちらが、ソ連フィンランド国境付近。まあ、まだかわいいものよ。 

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こちらがドイツ北方軍集団。新宿副都心どころか、ドバイの高層ビル群を彷彿とさせるハイスタックが密集している。これを現実のカウンターとして管理するのは、相当無理がある。 

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もちろん中央軍集団も、ドバイタワー並のハイスタックが屹立している。あのさ、ジェンガじゃないんだから。というわけで、ここはVASSALを頼るしか。 

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こちらは南方軍集団。枢軸側の青地に黄文字のユニットは、ルーマニア軍。ちなみに国籍で言うと、ドイツ軍、ソ連軍はもちろん、フィンランド軍、ルーマニア軍、ブルガリア軍、ハンガリー軍、スロバキア軍や、さらにイギリス海軍アメリカ海軍カウンターもたっぷり入っている。そう、レンドリース物資を運ぶ輸送船団や護衛艦も必要なのだ。

先日、日本語訳が公開されたTSWW1.6ルールブックは、全176ページ。シナリオブック(At the Starts)が126ページ、ドイツ軍の戦闘序列が108ページ、枢軸中小国の戦闘序列が41ページ、ソ連軍の戦闘序列が85ページ、西側連合軍の戦闘序列が50ページと、それ以外のデータもてんこ盛りである。

ちなみにシナリオは、練習用として「ソ連軍によるベルリン爆撃」「バレンツ海海戦」から始まり、小規模の「クリミア半島戦」シナリオ、中規模の「火星作戦」「天王星作戦」「フィンランド北部」、さらに「バルバロッサ」「青作戦」キャンペーンや、仮想「ロンメル、東部線戦へ」シナリオもあり。まあ、グランドキャンペーンは無理としても、なんとかVASSALプレイには漕ぎ着けたいと思う。 

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カウンターシートは、先にも述べたように全28枚。カウンター総数7840個。これ史上最大のカウンター数じゃないかと思ったが、Decision Games版の「War in the Pacific」が、シート32枚、カウンター約9000というから、上には上がいるものだ(他にもっと多いゲームもあるかも)。

そしてエウロパシリーズの流れを汲んだTSWWも、やたら細かく、部隊や艦船や機種が網羅されているが、それはもう今回だけでは紹介しきれないので「Part.2 枢軸軍カウンター編」「Part.3 ソ連・連合軍カウンター編」として、後ほど触れたいと思う。

しかし、そういったモンスターゲーム的な側面だけでなく、本作ではドイツとソ連、双方が行った戦争の残酷面も、数多く取り入れられているところが興味深い。

たとえばドイツは、本国で人種政策が行われているせいで毎月、人口ポイントが減っていくとか、占領国の人口ポイントを本国に移送して奴隷労働に就かせたり、ソ連軍捕虜を対独協力者(ヒヴィ)として使用するなど、ナチスの人種政策が反映されている。またパルチザンルールも詳細になり、特別行動隊(アインザッツグルッペン)ユニットも含まれている。また作戦面では、ヒトラーの介入があるため、前線部隊が後退する際には、後退許可が出たかどうかを、いちいち判定する仕組み。

対するソ連も、強制労働人口ポイントを建設工兵として使用したり、ドイツ軍がコーカサス地方に侵入すると、スターリンが信頼していないコーカサス地方の人々が強制収容所に送られてしまう。そしてスターリンも作戦に介入してくるため、ドイツ軍と同様に、ソ連軍も後退許可チェックが必要になってくる。またソ連が、穀倉地帯であるウクライナやヴォルガ河西岸を失った場合、飢餓が発生し、食糧が輸入されない限り、人口ポイントが減っていく。そのため枢軸軍としては、ソ連人民を文字通り絶滅させるために、ウクライナやヴォルガ西岸を取りに行く、という作戦も採りうるわけだ。

他にも、無償で補充できる懲罰部隊ユニットも登場するなど、ここまで独ソ戦の暗部を取り入れたウォーゲームも珍しいが、もしかするとそれは、個人事業のTKC Gamesだからできる荒技であって、大手のGMTやMMPでは、ここまで踏み込めないかもしれない。まあ、TSWWには、日本軍の化学兵器や、奴隷労働(泰緬鉄道)ルールもあるので、基本的にそういったシビアな部分にも目をつぶらないスタンスなのだけれど、とにかく、さまざまな意味で恐るべき独ソ戦ウォーゲームが出たのは間違いない。

ちなみに、すでに欠品カウンターが存在することも発見されており、追加カウンターシートも出すんじゃないかと噂されている。おいおい、5万円とか6万円も出して完璧な製品じゃないなんて……と憤慨する方は買わない方がいい。TSWWは、タガの外れたウォーゲームであり、文句があるなら買うな、ついて来たい奴だけついて来いのゲームなんだと思う。そういうゲームがあってもいいじゃないの。

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